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「抵抗勢力」と「バブルの崩壊」

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 言葉だけはいたるところで盛んに飛び交い、したがって多くの人たちが使うから自分も使い、使っているうちになんとなくわかったつもりになりながらも、その言葉が具体的になにを指し示し、どのようなことを意味しているのか、正確な実態や核心はなにひとつ知らないままである、という例を拾い集めるとたくさんあり、その多さに驚く。 

「抵抗勢力」はそのような言葉の、典型的なひとつではないか。自分が推進すると約束した構造改革と関連して、小泉首相が使った言葉だ。いっときは流行語のようにもなったが、改革はどうやらおこなわれそうにない、という認識が人々のあいだに広がるにつれて、この言葉はかなり色褪せた。 

「抵抗勢力」とは、いったいなになのか、首相は詳細に説明しただろうか。具体的にはこの国の中枢にいる何人かの人たちを指すと思われるが、彼らが誰と誰で、いつもどこにいてなにをしているのか、なにを考え企んでいるのかなど、説明はいっさいなかった。自民党のあの悪そうに老いた実力者の連中だろう、といった曖昧なイメージは誰でも持てるが、顔や喋りかたを人々がたやすく思い浮かべることの出来るほどに常に表面にいる彼らが、本当に「抵抗勢力」なのかどうか。

 この「抵抗勢力」から少しだけさかのぼると、「バブルの崩壊」という言葉がある。いまでもこれは頻繁に使用されている。一般の人たち、と呼ばれている人々にとってもバブルやその崩壊は、いまではごく日常的な言葉だ。しかし彼らは、バブルとはなにか、なぜそれは発生したか、そしてそれが崩壊したとはどういうことなのか、核心をはずすことなく正確に説明することが、おそらくまったく出来ない。日本にとってバブルの崩壊はたいへんな出来事だったのだし、いまでもその影響は大きくなるいっぽうだ。したがってバブル全般に関して、国家はきちんと説明すべきだと僕は思うが、そのような説明は聞いたことも見たこともない。

「抵抗勢力」や「バブルの崩壊」にかぎらず、きわめて大事なことなのに人々が正確にはなにも知らないすべての事柄が、じつは裏ではひとつにつながった出来事なのではないか。一般の人たちは核心をなにひとつ知らないという現実の裏側で、「抵抗勢力」そして発生も含めて「バブルの崩壊」は、おなじ人たちによって引き起こされた、緊密にひとつにつながった世界なのだ、という仮説を僕は立ててみる。バブルを発生させ、そしてそれを崩壊させた人たちが、首相がうかつにも「抵抗勢力」などと呼んでみせた人たちなのではないか。

底本:『自分と自分以外──戦後60年と今』NHKブックス 2004年


2004年 『自分と自分以外ー戦後60年と今』 政治 社会 言葉
2016年7月31日 05:30
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