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ミッキーマウスの両耳

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 ミッキーマウスをふたつ買った。ふたり、と言うべきか。ひょっとして、二体か。あるいは、二匹。上半身の高さが十一センチほどなので、ふたつでいいのではないか。良く出来ている。赤い半ズボンから黒くて細い脚が出ていて、その先端はあの大きな靴のなかだ。両脚は黒い紐だから、テーブルの角にすわらせて両脚をその角から下に降ろせば、両脚は空中にぶらぶらしていることになる。脚ぶらミッキー、という商品名だ。

 テーブルの角をはさんで、ふたつのミッキーのうちひとつは絵に描いたような脚ぶらだ。もうひとつは、片脚を膝で組んでいる。この様子も素晴らしい。このふたりをうしろから見るのを、僕は好んでいる。半ズボンはもちろん固形であり、そのすぐうしろに白い手袋をはめた両手をついている。腕は黒くて固い。ミッキーの頭は相当に大きく、張りの充分にある球体だ。ごろん、と丸く大きい。両耳に関して新たな発見があった。耳は平らな黒い丸だと思ってたのだが、脚ぶらミッキーのような三次元の立体だと、耳は黒いお碗のように、うしろに向けてふくらんでいる。この様子もなかなかいい。見ていて飽きることがない。この耳にはいまなにが聞こえているのか。

 ミッキーの丸い耳のついた黒いキャップを僕は大事にしている。頭にかぶればただちにミッキーになれる。アメリカのディズニーランドで購入したものだ。ミッキーの顔ないしは体ぜんたいを、出来るだけ大きくプリントしたTシャツを探している。

 僕の名前のなかにある「義」という文字の、最初の一画、そして二画は、どちらもごく短い線だが、これを黒く丸く塗りつぶすと、見ろよ、よく見るといい、しっかり見ろよ、それはミッキーの耳以外の、なにものでもないではないか。ミッキーの耳そのものだ。僕は命名されたときからすでに、ミッキーマウスなのだ。

『キネマ旬報』2018年11月上旬特別号


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2020年3月5日 07:00
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