VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

評論・エッセイ

僕の肩書は「お利口」

 その日の僕は中学校三年生だったと思う。いまから何年前だろう。原節子が女優として現役だった頃、というほどに昔だ。彼女は三十代だった。現役だから彼女は仕事をしていた。仕事とは撮影所で女優として撮影カメラの前に立ち、さまざまな演技をすることだった。撮影所は主として東宝で、それは砧にあった。
 仕事で移動するときの原節子は基本的には電車とバスであった、と書いてあった記事をかつてどこかで読み、このことだけはいまも僕は記憶している。撮影所での仕事を早くに終えた彼女は、次の仕事のために上りの各駅停車に乗っていたのだろうか。それとも撮…

底本:『原節子のすべて』新潮社 2012年11月

このエントリーをはてなブックマークに追加