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評論・エッセイ

あるのか、ないのか

 ある、という日本語について考えてみた。問題とされているその物がどこかに存在していることを、ある、と言う。この、ある、の反対は、ない、というおなじくひと言だが、ありません、という言いかたが日本語には、ある。ある、という状態が、ません、と否定されているから、ありません、と言われれば、それは明らかに、そこにはないのだ。
 ありません、という言いかたは、じつはたいそう抽象的なのではないか、といま思った。なぜ、抽象的なのか。ありません、という言いかたは、ある、という状態を単に否定しているだけではなく、かなりのところまで丁寧になっ…

底本:『酒林』2019年1月号

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