VOYAGER

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評論・エッセイ

海岸にて、というタイトルでなにか書いてください

 いつもの街で、ふたりは昼すぎに会った。四月十七日、気温の高い、気持ちよく晴れた美しい日だった。海岸へいってみようか、と彼が提案した。彼女は賛成だった。夜までには町へ戻り、ふたりで夕食を楽しむことにして、ふたりはすぐに駅へむかった。
 特急電車で一時間。そしてバスで十五分。太平洋に面した長く続く白い砂の海岸に、ふたりは到着した。海が巨大だった。その上にある空が、まっ青に輝いていた。吹く潮風をさえぎるもののなにもない空間が、自分たちの体の内部へ入りこみ広がっていく快感を、ふたりは存分に受けとめた。
 海岸にな…

底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年

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