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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

小さな白い落下傘

 いまぼくはタンポポの実を見ている。タンポポの実は、透明なアクリルの直方体のなかに閉じこめてある。幅と奥行きが五センチ、高さが七センチほどの直方体だ。タンポポの実は、この直方体のなかに浮かんだように静止している。いろんな角度から見ることができる。
 タンポポの花が開ききり、その花が三日か四日で終わると、実が開きはじめる。一般的には実とは呼ばず、種と呼んでいるようだ。この実が、丸く開ききったものが、いまぼくの手のなかにある透明アクリル直方体の内部に閉じこめられている。タンポポの花は、小さな花がたくさんより集まったものだから…

底本:『コーヒーもう一杯』角川文庫 1980年

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