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もはや社会そのものが機能しなくなるのか

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〈書評〉スーザン・ジョージ著 荒井雅子訳金持ちが確実に世界を支配する方法

 規制緩和、という四文字言葉を目にし耳にして、すでに久しい。二十年にはなるだろうか。この二十年といえば、日本では失われた二十年であり、規制緩和の二十年は失われた二十年と、一心同体のように重なっている。

 失われた二十年のなかで生まれた四文字言葉はたくさんある。景気後退。消費失速。歳出削減。福祉縮小。経費庄縮。雇用不安。失業増加。中流崩壊。社会が壊れていく様子を言いあらわした言葉ばかりであり、これらはすべて規制緩和から生まれた。そのなかで最大のものは、格差拡大だろう。

 政府による規制を可能な限り緩和して民間の自由競争にすべてまかせれば、経済は活性化されて上昇し、そこにはまったく新たな発展と成長がある、と最初に言い出した人たちは、アメリカでは金融のシステムを自分たちの思うままにしようと謀る人たち、つまりウォール街だった。

 アメリカの金融の中枢にいてそれを動かして来た人たちは、もともと好きほうだいやって来た。さらなる自由を得て儲けようとして失敗した住宅ローンはどう考えても犯罪行為なのだが、それを救済するためにアメリカ政府は十六兆ドルを投入した。そのアメリカは、いま世界のなかで、格差がもっとも拡大している国だ。

 イタリアの統計学者、コッラド・ジニが考えたジニ係数という数字は、「社会の中の所得分布を測る数字」だ。0から1までのあいだの数字であらわされる。0は全員が等しい所得を得ている状態であり、1はひとりの人が社会の全所得を独占した状態であり、どちらもあり得ない。あり得るのは0から1のあいだであり、アメリカはいま0・45だ。

「自由に機能する市場、経済・社会の発展、市民の福祉を目的とするのであれば、ジニ係数は高いよりも低いほうがはるかに望ましい。米国になると、富の分配の格差は危険領域に踏み込み始める」。日本は0・381でアメリカの後を追っている。

 政府の規制や干渉を限りなくゼロにし、最終的にはすべての税制を廃止しろ、というイデオロギーを信奉してそのとおりに行動して実績を積んだアメリカの人たちを、本書は極右の新自由主義者と呼んでいる。すべての税制の廃止、つまり自分たちは税金を払わないと主張する、途方もなく急進的な改革主義者だ。

 アメリカに学んでこの教えを受けた日本の人たちが規制緩和を唱え、アメリカからもさまざまなかたちで執拗に行動を迫られた結果として、日本における規制緩和は実行に移された。社会と経済の未来は規制の緩和にしかないというイデオロギーは、しかし、最終的になにを目ざしているのか。格差がある限度を越えて拡大すると、もはや社会そのものが機能しなくなるのだが。

 ものを思う秋、と昔から言われているこの季節に、本書はまことにふさわしい。ものを思うためのきっかけを、「社会」という章から。

「深く刻み込まれた社会的分断が多くの点できわめて高くつく」
「格差の大きい国々は創造性、革新性も低い」
「もっとも成功した社会、国民一人当たりの国内総生産がもっとも高く、かつ格差がもっとも少ない社会は、公的支出がもっとも多い社会でもある」
「世界の全雇用の約半分は公的支出によって支えられている」
「格差が深刻であればあるほど、好ましくない経済的・社会的現象の発生率が高い」
「現在多くの欧米富裕先進国が行っている政策は、単に方向を誤っているだけでなく、ジョセフ・スティグリッツの言葉どおり、潜在的には『自殺同然』であり、やがて、資本主義の衰退へ、場合によっては混乱のうちに崩壊へとつながりかねない」
「私たちはできる手段で対抗し、抵抗を積み重ねていくほかはない」(訳者あとがきより)

出典:『週刊朝日』2014年10月31日号


2018年5月11日 00:00