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SFを絵に描く技法の進化形

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 一九六十年代のなかばにさしかかり、なかばを超え、六十年代の後半へと入っていった時代の、アメリカのサイエンス・フィクションのペーパーバックの表紙を、しばらく観察してみたい。大衆のあいだに大量に売りさばく本の典型であるペーパーバックの表紙に、サイエンス・フィクションの内容を絵で描くことが、たいへんに難しくなり始めた時代の貴重な表紙ばかりだ。

 紙芝居的なリアリズムに支えられた、従来どおりの空想科学小説としての表紙絵は、急速に少数派へとすぼまっていった。昔の子供が夢に見たようなロケットが月面に降り立ち、宇宙服に身を固めた地球からの人たちが、戦闘ハードウエアそのもののような宇宙人と戦っている、というような表紙絵のあとに出現したのが、ここにあるような絵で表紙を飾ったペーパーバックだった。

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 宇宙のかなたの異星の空間は、得体の知れない奥行きをたたえた、不気味さも不可解さもともに底なしの世界として、描かれている。地球上で普通に認識されている時間とは、まったく異種の時間がそこにあることを、描いた画家たちはなんとか表現しようとしていたようだ、と僕は思う。サイエンス・フィクションのペーパーバック表紙絵の、これは明らかな進化形だと解釈していい。

 どこか遠いところにある星の時空間が、なんらかの意味で地球の人にとって戦いの場であることには変わりはないのだが、戦いの質と様相は確かに進化している。ブリキの玩具とおなじかたちをしたロケットで攻め込み、宇宙銃をぶっぱなして宇宙人を全滅させる、というような戦いが絵に描かれた日々は、ついに終った。

 ジャングルの上空を飛ぶ爆撃機から爆弾を大量にばらまき、それでも足らないからこんどは枯れ葉剤を撤いてジャングルそのものを消してしまおうとした、この地球上での自分たちの戦争の失敗は、宇宙における戦争をめぐる想像力を鍛えて進化させた。

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 このままもう少しだけ進めばすべて抽象画になってしまいそうな表紙絵は、アメリカの大衆にとっては親和性の希薄なものだったはずだ。進化した表紙絵の時代は長くは続かなかった。なんらかの敵対関係の物語を、未来の時空間のなかに設定することじたいに、無理が生じ始めた。外敵との戦いの場としての宇宙が、自分たちになんの利益ももたらさないことを、人々はすでに知っていた。

出典:『Free&Easy』2001年7月号


『Free&Easy』 アメリカの色とかたち
2017年12月27日 00:00
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