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リアリズムが勝つに決まってる

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 アメリカ文化のあらゆる領域を貫く、もっとも重要な価値の中心軸はリアリズムだ。努力や才能、熱意や善意、創意独創、時の運や神の加護などだけでは、勝利は約束されない。最終的に勝ちをおさめるために欠かすことの不可能な方針は、リアリズムという科学だ。そしてアメリカ文化は、このリアリズムの追求をもっとも得意にしている。リアリズムを学んで自分のものにするなら、アメリカでそれを学ぶのがいちばんいい。

 英語がいま世界語になっている理由は、英語がリアリズムのための言葉だからだ。アメリカの英語は特にその傾向が強い。このリアリズムに世界が乗っているのが、いまの現状だ。リアリズムはわかりやすい。それは万人のものだと言ってもいい。文化の全領域が基本的にはすべての人に開かれているのがアメリカだが、じつはリアリズムという機軸価値の機能によって、そうならざるを得ないからだ。アメリカの強さの秘密はここにある。

 アメリカの絵画の歴史もリアリズムで支えられている。僕の好きなひとりであるリチャード・エステスという画家は、リアリズムのなかのリアリズムとして、フォト・リアリズムの人などと呼ばれている。写真をカンヴァスに投影し、その上をなぞって絵を作り、すべて現実にあるとおりそっくりに描きなおす人というよくある誤解は、絵画におけるリアリズムとはなになのか、まるでわかってないところから生まれてくる。

 たしかに彼はカラー写真を自分で大量に撮影し、それらを駆使して作品を組み上げていく。特にディテールにおいては、リアリズムをその向こうへと越えた、スーパー・リアリズムで彼は描きこむ。しかしぜんたいの構成は、現実とはかなり異なる。現実をアーティストのリバティによって、彼は再構成している。再構成というリアリズムによって、彼はリアリズムをまっとうしている。

 現実を現実そっくりに描く、という領域はあっていい。技法とその使いこなし、そしてその結果による鮮やかなできばえは、確実に生まれる。しかしそれでは現実を越えることはできない。

 現実を越えた前方にもうひとつの現実を見て、それを現出させるというリアリズム。これの科学的な底力によってのみ、現実は次の段階の現実のための材料となる。現実に美を見て満足すると、その現実はそこで静止してしまうだけとなる。

出典:『Free&Easy』2000年5月


2017年11月30日 00:00