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ハワイの絵葉書の不思議な情感

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 ハワイが観光地としての性格をおびた最初の瞬間、というものについて僕はいま考えている。その瞬間はいまからおよそ八十年ほど前のことだ。太平洋のまんなかという、遠い場所にある珍しい未開の島、ハワイ。そこへ遠くからきた人が、来ることのできなかった人に宛てて、ハワイのあれやこれやについて、手紙そして絵葉書で書き送る。ハワイが観光地としての性格を最初に帯びた瞬間の、次の瞬間には、そのハワイについて親しい人たちに伝える絵葉書というものが、成立していたはずだ。

 そのときから現在にいたるまで、ハワイから外へと出ていった観光絵葉書の数は、累計でどのくらいの数になるものなのか。天文学的な数字、という言いかたをあてはめてもいいだろうか。じつにおびただしい数の絵葉書が、切手を貼られ消印を押され、飛行機や船で、世界のあらゆるところへ配達された。そのことはいまも続いている。

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 観光地ハワイにとっていちばんハワイらしいものは、そこが観光地であることをもっとも端的に伝える手段である、絵葉書という一枚の小さな紙だ。ハワイの絵葉書はハワイそのものだと言ってもいい。人の体になぞらえると爪や髪のように、ハワイには絵葉書が生え続ける。観光客のほとんど全員が、それをはがし取っては短文をしたため、切手を貼って投函する。宛て先として書かれた受取人の手もとに、ハワイの分身としてその絵葉書は遠からず届く。

 このような不思議なものであるハワイの絵葉書は、その不思議さゆえに、たとえばマクロ・レンズをつけた一眼レフの被写体として、充分すぎるほどに成立する。ハワイの絵葉書を写真に撮ることによってハワイを撮る、という遊びが楽しく可能であることを、僕は知っている。

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 ハワイの空を背景にして、なんらかのかたちで椰子の樹が画面のなかにある絵葉書をかたっぱしから買い集め、椰子の樹と空はおたがいに隠されないよう、気をつけて配置し重ね合わせて一点の写真に撮るならば、ハワイの椰子の樹すべてを写真に撮ったのと、ほとんど変わらない感銘を味わうことができる。

 一九五十年から一九九五年までのワイキキ・ビーチを主観とした絵葉書のコレクションを、かつて僕は見たことがある。一枚ずつすべてを写真に撮りたいという、強烈な衝動を受けた自分を、いま僕は思い起こす。

出典:『Free&Easy』2000年4月


2017年11月27日 00:00