アイキャッチ画像

傘の記念写真を撮った日

縦書きで読む

LinkedIn にシェア
LINEで送る
Pocket

 傘は絵になる、という法則は充分に成立する、と僕は思う。日常生活のなかにすっかりなじんでいるから、もはや誰も傘に新たな視線を向けることはないようだが、別のページで書いたとおり、開いた状態でもあるいは閉じられていても、傘はなんとも言いがたく奇妙なかたちをしている。人間と雨との関係のなかに、雨に濡れたくない、という領域がある。その領域のなかに実用的に成立して以来ずっと、傘はいまあるかたちで続いてきた。傘をさして雨のなかを歩いている人を写真に撮ることはまずないけれど、傘だけがそこにあると、その傘を僕は写真に撮ることが多い。

KY170614_1と2合体

 この二ページ〔写真上〕にあるふたつの光景を、僕はおなじ日に撮った。ひとつは光景のなかに読めるとおり、世田谷区宮坂一丁目四十六という場所で撮った。そしてもうひとつは、下北沢駅北口マーケットの、東側の入口近くで撮った。いまでもかろうじてこの場所は残っているけれど、この店と傘の絵は、もうないかもしれない。傘という奇妙なものの記念写真だ、と僕は理解している。傘のあるこのような光景をたくさん撮りためて、その光景だけで一冊を編む、というアイディアを僕は楽しむ。

(底本:『ホームタウン東京──どこにもない故郷を探す』ちくま文庫 二〇〇三年)

タグで読む07▼|雨を読む/雨で読む

タグで読む_バナー画像_雨

関連エッセイ


2003年 『ホームタウン東京──どこにもない故郷を探す』 下北沢 写真 東京
2017年6月14日 00:00
サポータ募集中