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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

金魚と散歩だ

 梅雨の晴れ間、平日の午後、約束どおりの時間に、僕はその喫茶店の自動ドアを入った。彼女が指定した喫茶店だ。僕もときどきここでコーヒーを飲む。彼女と偶然にここで逢うことが、これまで一度もなかった。そのことについて思いながら、奥に向けて長い店の空間へと、僕は入っていった。
 入ってすぐ左側には、何種類ものコーヒー豆のガラス・ケースがあり、レジのカウンターとつながって配膳のためのカウンターが、奥に向けてのびていた。右側は客席だ。カウンターの前を抜けると、左右両側にテーブルのならぶスペースがあり、さらにその奥にも、いきどまりの壁…

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