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評論・エッセイ

忘れがたき故郷

 こきょうと平仮名で入力し、変換する。故郷、という漢字が画面に出る。ふるさと、と入力して変換すると、この場合も、故郷という言葉が、画面に浮かび出る。こきょうは、やや硬い言いかただろうか。ふるさとは、明らかに柔らかい言いかただ。変換されたまま画面にある故郷という言葉を、僕は見つめる。この言葉はもう死語ではないか、と僕はやがて思う。
 故郷という言葉は、たいそう便利な言葉だ。漢字ふたつによる、どんなに小さな具体物にも、あるいはどれほど大きな概念にも、ごく気楽に、しばしばうかつに、使われることの多い言葉だ。この言葉がすでに死語…

底本:『坊やはこうして作家になる』水魚書房 2000年

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