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評論・エッセイ

ノートブックに描いた風景画

 1
 三枚かさねた大きなパンケーキをバターとメイプル・シロップの洪水に沈め、彼はナイフとフォークを手術器具のように操り、秩序正しい正統的な食べ方でそれを食べた。
 彼の屈強な下半身は、はき古したブルー・ジーンズがつつんでいた。下半身よりもさらに屈強な上半身には、フランネルの半袖シャツを着ていた。思いつく色をかたっぱしから使ってプレイドにしたような柄のシャツは、しかし、しわや陽焼けは深いが素朴な表情の彼に、よく似合っていた。
 ふたつむこうのストゥールにすわっている彼は、「なにか新しいことは出…

底本:『ノートブックに誘惑された』角川文庫 1992年

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