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評論・エッセイ

『上海帰りのリル』一九五二年(昭和二十七年)

 歌詞、声、歌いかた、そして演奏などの相乗効果が、『上海帰りのリル』という歌を聴く人のなかに作り出す最終的な印象は、明るいものだと僕は思う。暗いとは言えない。ペシミスティックではないし、けっしてメランコリックでもない。聴く人のなかに歌詞が生む世界は、沈んだものだ。しかしその沈み具合は、歌謡曲によくある、せつないとかやるせないといった次元にとどまる。編曲そして演奏の、はっきりした軽快なテンポに託された第一の主題は、前進力だと言っていい。
『上海帰りのリル』という歌が日本で全国的にヒットしたのは、昭和二十六年、一九五一年のこと…

初出:『映画を書く──日本映画の謎を解く』ハローケイエンターテインメント 一九九六年
底本:『映画を書く──日本映画の原風景』文春文庫 二〇〇一年

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