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評論・エッセイ

『夜来香』一九五一年(昭和二十六年)

『夜来香』という歌は、いい歌だと僕は思う。曲に対する印象をひと言で言うなら、純情可憐だろうか。いま進行しつつある物語、あるいはこれからの物語の歌ではなく、すでに終わった物語の歌であることは、一度聴けば誰にでもわかる。終わった物語についての、思い出の歌だ。しかしその思い出はつきない。「あわれ春風」「嘆くうぐいす」「月に切なくも」「長き夜の涙」「恋の夢消えて」「胸いたく」「唄かなし」つきない思い出を支える感情は、以上のようなものだ。これらが、白い花であり恋の花である夜来香に、ひとまとめに託してある。
 映画『夜来香』は、歌のタ…

初出:『映画を書く──日本映画の謎を解く』ハローケイエンターテインメント 一九九六年
底本:『映画を書く──日本映画の原風景』文春文庫 二〇〇一年

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