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評論・エッセイ

『夜の女たち』一九四八年(昭和二十三年)『誘惑』

 大阪の西成地区を、撮影カメラは高い位置から俯瞰でとらえる。左に向けてゆっくりとパンしていく。秋が冬に向かおうとしている季節だろうか。晴れた日の陽ざしを受けとめているのは、焼け跡だ。しかしその焼け跡のなかには、新しい建物が増えつつあることが、画面を見ているだけでわかる。新しい建物とはいっても、どれもが仮設のような建物だ。しかし上空から見下ろすと、屋根がくっきりと四角くて新しい。
 この映画が製作されたときの、人々の身のまわりにあった現実の光景は、この冒頭のフィルムにとらえてあるとおりだったのだろう、と僕は思う。左へ向けてパ…

初出:『映画を書く──日本映画の謎を解く』ハローケイエンターテインメント 一九九六年
底本:『映画を書く──日本映画の原風景』文春文庫 二〇〇一年

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