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評論・エッセイ

『花咲く家族』一九四七年(昭和二十二年)

 佐藤家の当主はすでに何年も前に亡くなっている。医者であった彼は自宅で開業していたらしい。その自宅は、静かで交通の便のいい、落ち着いた住宅地のなかにある。現在の東京にはもはやどこにもないほどに和風の、凝った庭のあるかなり大きな二階建ての家だ。
 登場する人物たちは、この家のなかで、住みやすそうに快適そうに、立ち居振る舞いをしている。このような造りの家とその間取り、つまり使いみちのなかでの動きかたを、俳優たちが無理なく身につけていることが、彼らを見ているとよくわかる。小津の映画だけ見て感心していないで、ほかの映画もたくさん見…

初出:『映画を書く──日本映画の謎を解く』ハローケイエンターテインメント 一九九六年
底本:『映画を書く──日本映画の原風景』文春文庫 二〇〇一年

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