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評論・エッセイ

『或る夜の接吻』一九四六年(昭和二十一年)

 男女が接吻をする場面が日本の映画にはまったくない。これはひどく不自然なことだから、ぜひとも接吻の場面のある映画を製作するように。と、GHQの民間情報教育部の映画演劇課の課長、デイヴィッド・コンデは日本の映画会社に強く要請した。厳しい検閲で禁止されていたから、敗戦までの時代の日本映画には、接吻の場面がなかったのだ。外国映画のなかの接吻の場面は、すべて不自然にカットされて公開されていた。
 コンデ課長の要請に応えて、一九四六年の五月二十三日というおなじ日に、『或る夜の接吻』と『はたちの青春』という二本の映画が公開された。どち…

初出:『映画を書く──日本映画の謎を解く』ハローケイエンターテインメント 一九九六年
底本:『映画を書く──日本映画の原風景』文春文庫 二〇〇一年

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