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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

『熱風』一九四三年(昭和十八年)

『ハナ子さん』の冒頭に出たのとおなじデザインで、「撃ちてし止まむ」の言葉が画面に出る。「情報局国民映画」と文字だけの画面は続き、さらに「下関要塞司令部、長崎要塞司令部、検閲済み」と出る。なぜ下関と長崎なのか。ロケーション撮影された場所が、かつての八幡製鉄、いまの新日鉄だからだ。
 中国で鉄鉱石が掘り出される。それは日本へ運ばれる。その小さな輸送船は途中で攻撃を受ける。戦いとなる。僕が見たヴィデオでは、この戦闘の部分に画面はなく、音声だけが聞こえていた。六十年以上前の検閲の結果だろうか。日本の輸送船は戦いに勝つ。


初出:『映画を書く──日本映画の謎を解く』ハローケイエンターテインメント 一九九六年
底本:『映画を書く──日本映画の原風景』文春文庫 二〇〇一年

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