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評論・エッセイ

『嫁ぐ日まで』一九四〇年(昭和十五年)

 何年か前に妻を亡くした中年のサラリーマン、生方光三は、ふたりの娘たちとともに一軒の家に住んでいる。原節子が演じる長女の好子は、もうじき二十歳になろうかという年齢だ。妹の浅子はいまで言う女子高生だ。大人びた姉にくらべると、妹はまだまだこれからという印象だ。
 長女の好子は家にいる。割烹着で台所に立ち、妹になにかと小言に近いようなことを言いつつ、気を配って忙しげに家事をする様子は、充分に妹の母親がわりだ。そして、帰宅した父親の着替えを手伝う様子には、いわゆる身のまわりの世話を一手に引き受けている印象が確実にある。なかば妻がわ…

初出:『映画を書く──日本映画の謎を解く』ハローケイエンターテインメント 一九九六年
底本:『映画を書く──日本映画の原風景』文春文庫 二〇〇一年

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