現実を記号に置きかえた道路地図という幻の世界
アメリカを旅していて、ロード・アトラスが今年のものではないことほど落ち着かないものはない。前の年の版だったりすると、不安になるというほどのことはないのだが、なぜかいつまでも妙に落ち着かない。アトラスのなかに記号的に描かれている世界と、現実に自分の目のまえに刻々と現れる世界とがいつまでも一致せず、その一致しない世界のどこか中間あたりに自分があいまいに漂ってるような気持ちとなる。すくなくともぼくの場合は、そうだ。
地図が記号であることは、まずまちがいない。旅をするときには、その記号をまず見る。ここをこう走ってこの町に出て、…
底本:『シヴォレーで新聞配達──雑誌広告で読むアメリカ』研究社出版 一九九一年