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評論・エッセイ

きみを愛するトースト

 いつものおなじキチンでも、真夏のキチンと真冬のキチンとでは、ほぼ完全に別のものだ。真夏のキチンには、自由がある。たいていのことは、その自由さのなかで、許せてしまう。あるいは、見逃すことが出来る。そしてその自由は、たとえば窓の外に見えている景色と、直接につながっている。真夏のキチンは、自由な広がりを持っている。
 真冬のキチンは、閉ざされている。窓の外にある景色のなかへ、出来ることなら出ていきたくない、などと思ってしまう。出ていくとしても、午後からにしたいものだ、などとも思う。真冬の朝、寝室を出てキチンに入ると、キチンは冷…

底本:『きみを愛するトースト』角川文庫 一九八九年

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