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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

水の上に漂う煙

 そのバーは、三層になっている。フロアが三段あるからだ。入ってすこしだけ階段を下がったところが、いちばん下のフロアだ。ここには、丸いテーブルをシートが半円にかこんでいるブースが、いくつもある。
 そのフロアから階段を上がると、そこはカウンターのあるフロアだ。階段の左右に、きわめて居心地のよいカウンターが、落ち着いた雰囲気でひとつずつある。さらにその上のフロアは、いちばん下のフロアとは趣を変化させた、テーブル席のフロアだ。
 彼女は、左側のカウンターの奥に、ひとりでいた。ぼくに気づいて、彼女は笑顔になった。彼女が…

底本:『きみを愛するトースト』角川文庫 一九八九年

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