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評論・エッセイ

前線基地としての彼女の部屋

 今年の春おそく、書かなければならない中編小説の女性主人公について考えていて、ぼくは思いついた。一日の仕事を終わった彼女に、帰るべき自分の部屋が三つあったなら、きっと彼女の生活ぶりはさまざまに面白くなるにちがいない、ということを思いついた。第一線で活躍している、あるひとりの素敵な女性にこの思いつきを語ってみたら、「そんなことがもしあったら、それは最高よ」と、ぼくは渇望の視線を彼女からむけられてしまった。部屋が三つあるくらいで最高と言われてもすこし困るのだが、「むむむ、やはりそうか」と、ぼくは思った。
 主人公の女性は東京に…

底本:『きみを愛するトースト』角川文庫 一九八九年

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