カントリー・アンド・ウエスタン・ソングの内部へ
放浪の生活を重ねた果てに、そのひとりの青年は、手もとに現金はもはや一セントもない、という状態になってしまった。そして、空腹を覚えた。食事の時間をすでに二度、スキップしたあげくの空腹だ。
わずかな身のまわりの品をつめたリュックを背負い、ギターを一丁持ったその青年は、町の裏通りを歩いていった。そして、一軒の簡易食堂に目をつけると、その店に入った。この商売で年季を積んだ、初老の、充分に鋭いけれどもどこかにソフトな部分を残しているような印象の店主をつかまえたその青年は、自分はいま無一文だが心のありったけをこめて歌をうたって聴か…
底本:『きみを愛するトースト』角川文庫 一九八九年
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