VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

評論・エッセイ

キャデラック小説

 僕が最初に運転した本物の自動車はキャデラックだった。当時の僕は十歳くらいだったと思う。父親がつきあっていた人たちは、ほとんどが日系二世だった。そのなかのひとりに、子供の僕から見ても、相当に風変わりな男性がいた。
 四十歳になったかならないかという年齢の、なにを考えているのか、なにをしたいのか、どんな方針で生きていくのかなど、少なくとも僕にはまったくつかめない、そのときまかせの風のような、奇妙な軽さのある人だった。その軽さの一端で、彼は幼い僕を友人のように相手にしてくれていた。僕も相当に変わっていたからではなかったか。僕が…

底本:『坊やはこうして作家になる』水魚書房 二〇〇〇年

このエントリーをはてなブックマークに追加