小田急線のかたわら、木造の小さな古い家。そのなかで続いた、好奇心の持続、というひとつの人生
小田急線の経堂の駅から歩いて七、八分、線路のすぐそばに、植草さんの自宅がかつてあった。玄関のまえに立つとタイム・スリップがおもむろにはじまるような印象のある、木造平屋建ての、いい家だった。この家の、奥の部屋に、植草さんの書斎があった。小さなすわり机を中心にして、山のように本があり、おすわりなさい、と言われてもどこにすわっていいのか、楽しく困ってしまうような部屋だ。
子供の頃の僕なら、積んである画集の上にすわったりするのだが、おすわりなさいと言われた僕は、積み上げて柱のようになっている何冊もの重い本を移動させて空きを作り…
底本:『水平線のファイル・ボックス 読書編』光文社 一九九一年