VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

評論・エッセイ

夕焼け小焼けの

あたりは、とても静かだった。おそい秋の、よく晴れた一日の夕方だ。畑のなかの道路に、自動車は走っていなかったし、人も歩いてはいなかった。——トランペットの音が、聞えていた。澄んでおだやかな、夕暮れの芳しい空気のなかを、その音は、透明に、しみこむように、流れてきた。中学校のほうから聞えてくるのだった。

底本:『ターザンが教えてくれた』角川文庫 一九八二年

このエントリーをはてなブックマークに追加