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書評

球場の書店に寄る 1 投球と口語の幸せな合致

リング・ラードナー著『おれは駆け出し投手』(1916)は「サタデー・イブニング・ポスト」に連載された作品。ジャック・キーフという名の投手が、故郷にいるアルという親友に宛て、ほぼ完璧な口語で書いた何通もの手紙ですべてが語られていくという構成は、なんとも言えず素晴らしい正解ぶりだ。しかも手紙はジャックからの往信だけで、アルからの返信は一切ない。この工夫も興味深い。手紙はすべて文字によって綴られているが、口語で語っていくことが生み出す効果は、文字が読者の頭の中でたちまち音声に変換されていくという、ちょっとした魔法なのだ。

底本:『ミステリマガジン』二〇〇四年一月号

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