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小説

左右非対称の陽焼け

今は巨匠と呼ばれる大学の先輩が撮ったモノクロ写真。

 「二十代の私」というエッセイと写真のページへの執筆を依頼された四十代半ばの写真家の彼女は、二十代といっても幅があると思いつつ、掲載する写真をあれこれ考えていて、一枚の写真に思い当たります。それは、大学三年生の夏、東京から長崎の伯父の家まで左ハンドルのクーペで旅をした後で撮影したもの。カンカン照りが続く中、海沿いを選んで運転した彼女は、見事に左右非対称に陽に焼けていました。その状態で、今は巨匠と呼ばれる大学の先輩が撮ったモノクロ写真。仕事が続く限り、あらゆる経験は無駄にならないのかもしれないという物語です。

底本:『NALU』66号 二〇〇八年九月

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