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評論・エッセイ

トミー・フラナガンのヴェルヴェット・ムーン

 5月のゴールデン・ウィークがはじまる前の日に、友人が遊びに来た。友人は、オートバイで、やってきた。たまたま庭に出ていたぼくは、下の私道に入りこんでくる彼の、オートバイの排気音を聴いた。排気音は、ぼくの家の階段の下で、とまった。
 友人たちが乗っているオートバイの排気音は、みんな知っている。音を聴けば、誰が遊びにきたか、だいたいわかる。庭に出ていたぼくが聴いた排気音は、友人のオートバイとしては、はじめてのものだった。4サイクル2気筒を、おとなしくおさえた音だ。
 誰がきたのかと思って、ぼくは階段のうえに出て…

底本:『ジャズ批評』二〇一七年九月(一九八〇年36号を再録)
初出:『ジャズ批評』一九八〇年八月36号
『コーヒーもう一杯』角川文庫 一九八〇年十月『お月さまはベルベット』として所収
片岡義男エッセイ・コレクション『彼の後輪が滑った』太田出版 一九九六年『お月さまはベルベット』として所収

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