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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

彼女の部屋に文庫本

 都電の停留所ちかくのビリヤードで昼すぎからずっとロテーションをやりつづける。やがて、夕暮れどきがくる。店の中の話し声や足音、玉の触れあう音などが、なんとなくだれた、かったるいものになっている。十五個の玉を六つのポケットに落とす作業に数時間にわたって熱中し、ふと店の中を見渡すと、五台あるテーブルのうちの二台に、もう人がいない。夕暮れまでの客と、夕暮れからの客とが入れかわる、凪いだ時間だ。
 店のおばさんが、お茶を持ってきてくれる。それまでの熱気のある緊迫感は急速に薄らぎ、お茶をすすりながら、「あとワン・ゲームでやめよう」…

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