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評論・エッセイ

ヘリコプターは上昇し飛び去った

この作品は、『日本語の外へ』「第1部 アメリカ──湾岸戦争を観察した」
に収録されたものです。
 クエートの若い人たちは、戦争のあいだ、カイロに逃げていた。そこでいつもとおなじような生活をしていた。夜になればディスコという毎日だ。イラクの軍隊によって、クエートは確かに破壊された。廃墟のようになった町には、電気もなく水もなかった。燃えるいくつもの油田からの煙が、クエートの空を覆った。晴天の日の朝、まだ十時なのに、空はそのぜんたいが濃い灰色であり、奇妙にうす暗い空間がその空と地表とのあいだに横たわっていた。外を…

底本:『日本語の外へ』角川文庫 2003年
『日本語の外へ』筑摩書房 1997年

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