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評論・エッセイ

サンドイッチとアメリカの理念

『ディア・ハンター』というアメリカ映画のなかに、いまでも忘れていない、きわめて興味深い場面がひとつあった。鹿撃ちに出かけた男たちが昼食を食べる場面だ。持って来た食事の材料を、彼らは自動車のエンジン・フードの上に広げる。なるほど、サンドイッチを作って食べるのだな、と誰もが思うけれど、彼らはそんなものを作ったりはしない。
 ならべた材料を、端から順番に、そのまま彼らは食べていく。マヨネーズやマスタードは指先につけてなめる。パンにはなにもはさまず、パンだけを食べる。ハムもサラミもボローニャも、すべて単独に、それだけを食べる。エ…

底本:『白いプラスティックのフォーク──食は自分を作ったか』NHK出版 2005年

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