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評論・エッセイ

ナポリへの旅

 スパゲッティ・ナポリタン、という呼び名の料理が、かつて日本にあった。あるいは、いまでもまだある、と言うべきか。間に合わせにちょっとなにか食べておく、という食べかたの伝統が、たとえば首都東京には江戸時代からある。江戸に流入して浮動する人口の食生活を、江戸にたくさんあった屋台が支えた。スパゲッティ・ナポリタンは明らかにこの伝統のなかに位置されるべきものであり、日本全国どこでも、駅前あるいは商店街の喫茶店には、メニューにならぶ食べ物の中心のひとつとして、スパゲッティ・ナポリタンがあった。
 絶滅したとは言えないものの、ナポリ…

底本:『白いプラスティックのフォーク──食は自分を作ったか』NHK出版 2005年
初出:Gakken mook「鉄道でゆく」二号 2004年7月

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