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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

まっ赤なトマトの陽焼けした肩

 トマトは何色ですか、といま人に訊けば、その色は赤です、という答えが返ってくるだろう。年齢が下がるほど、トマトの色はその赤い色を濃くするのではないか。子供たちに言わせれば、トマトの色はこれ以上ではあり得ないほどの、まっ赤だろう。
 遠い記憶は曖昧だったり淡かったりを越えて、すでに消え去っていると言っていいようにも思うが、僕のなかにあるトマトの記憶は、かなり正確だと思う。いまどこでも普通に市販されているまっ赤なトマトを、子供の頃には一度も見ていない。日常の食品のなかで、トマトじたいがまだいまのような位置になかった。数多い野…

底本:『白いプラスティックのフォーク──食は自分を作ったか』NHK出版 2005年