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評論・エッセイ

『湾岸道路』

 かつて僕に割り振られた角川文庫の背中の色は、赤だった。これを書いているいまから数えて、すでに一年と六か月以上、僕は角川文庫から文庫を刊行していない。背中の赤い色も、すでに過去のものだと言っていい。その過去を、さらに僕はさかのぼっていく。そうすると、『湾岸道路』という作品にいき当たる。文庫で三百五十ページを超えた分量だ。このくらいあるなら、それは長編と言っていいだろうか。ジャケットを表紙の内側へ巻き込んだ袖の部分に、次のような文章が印刷してある。
『「元気でいろよ」のひと言を残して、彼はあの年の夏の彼方へ消えてしまった。…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『彼の後輪が滑った』太田出版 1996年