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書評

江戸人にみる虚構の楽しみかたの極意

〈書評〉アダム・カバット著『江戸の化物 草双紙の人気者たち』

 雨のそぼ降る寂しい夜、異様に大きな頭に竹の子笠をのせ、着物一枚に帯をしめて素足にわらじを履き、漆塗りの丸盆に紅葉の印のついた豆腐を一丁のせて手に持ち、もういっぽうの手には徳利を下げ、まだ幼い子供の姿と雰囲気で、とおりすがりの人の前にちょこちょことあらわれ、「ひとつ買ってきたから奴でおあがり」と、丸盆の豆腐を差し出す。
 ただこれだけのことだが、豆腐小僧と名づけられたこの江戸の化け物は、明らかに異形ではあるけれど、面白くて愉快で不…

底本:『週刊朝日』2014年5月23日号

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