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エッセイ

猫のことを書くなら

 人から聞いた猫の話を書いておこう。それほど遠くはない過去の、ある日ある時、その人は仕事で訪れた町のはずれを、平日の午後、ひとりで歩いていた。FAXで受信した略地図を、その人は持っていた。略地図のなかに記された道順どおりに歩き、脇道へと入った。この道を次の十字路までいき、それを左へ曲がればいいのだ、などと思いながら歩いていったその人は、突然、立ち止まった。立ち止まらざるを得なかったからだ。その人のすぐ目の前、三メートルと離れていないところに一匹の猫が、道幅いっぱいに横たわっていたからだ。
 一方通行の道だったが、自動車は…

底本:『ピーナツ・バターで始める朝』東京書籍 2009年

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