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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

手巻き、という種類の時間

 アメリカにハミルトンという時計会社がある。ここが製造している腕時計にカーキーというシリーズがあり、メカニカル、と文字盤に英文字で表示してある腕時計を、僕は使っている。この夏で三年になる。メカニカルとは、機械式、つまり手巻きということだ。
 僕は十歳のときに初めての腕時計を、自分のものとして持った。アメリカ陸軍からの戦後の放出品を父親がただ同然で手に入れてくれた。この腕時計がハミルトンの手巻きだった。二十代なかばまでいつも左手首に巻いていた。誰かに熱心に所望され、進呈した記憶がかすかにある。
 この最初の腕…

底本:『酒林』2017年9月号