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評論・エッセイ

美しい謎の霧子はどこへ消えたのか

 霧子は完璧だった。彼女自身にとって、そして彼女の相手となる人にとっても、まったく負担にならない性質の、たいへんな美貌だった。控えめでもの静かで、冷静そうな雰囲気は、頭やセンスの良さの当然の反映だったにちがいない。姿は素晴らしく、うしろ姿が特に良く、ふりかえるとさらに良いという、恵まれた女性だった。
 涼しげな声はたとえば僕のなかのどこかにいつまでも余韻を残した。優しい笑顔や白い指の動き、身のこなし、歩きかた、髪のつくりなど、すべてが美しく統一されていた。ぜんたいの感触は限りなくさらさらしていて、僕はけっして接近をはかっ…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『「彼女」はグッド・デザイン』太田出版 1996年
『ノートブックに誘惑された』角川文庫 1992年所収

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