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評論・エッセイ

かあちゃん、腹へったよう

 日本におけるケチャップの運命をたどるとき、立ち寄らずにすませることのできないもののひとつは、チキンライスだ。ごく普通の家庭でのチキンライスについて、考えてみたい。
 食事の時間ではないときに、「かあちゃん、腹へったよう」と、十歳の子供が母親に言ったとして、その子供が僕なら、僕の母親はけっして返事をせず、すべてを無視した。なぜなら僕の母親はかあちゃんではなく、お母さんだったから。
 早くもお腹を空かせた子供に、優しいかあちゃんはチキンライスを作ることを思いつく。ご飯の残りがあったからだ。時代をいつに設定する…

底本:『ナポリへの道』東京書籍 2008年

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