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評論・エッセイ

「時代」は「自分」にまかせろ

 もはや数十年前のことになるけれど、あるときあるところに僕は生まれた。そのときそこに生まれた、と言ってもいい。具体的に言いたくなくてこう言っているのではなく、「時代」のなかには生まれていない、ということを言いたいからだ。
「お生まれになったのは、どんな時代だったのですか」「いやあ、大変な時代ですよ。両親はよく生みましたねえ」などという会話がときたまある。このような文脈での「時代」とは、過去のなかのある期間、たとえば僕が赤子だった二、三年間を意味しているだけだ。過去の特定の期間を指してそれを「時代」と呼ぶのは、ごく普通の言…

底本:『自分と自分以外──戦後60年と今』NHKブックス 2004年

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