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評論・エッセイ

ドーナツの穴が残っている皿

 僕の記憶が正しければ、僕はこれまでにドーナツの穴を二度、食べたことがある。ドーナツではなく、そのドーナツの穴だ。あの穴は、ちょっとした工夫によっては、食べることが出来る。
 僕が最初に食べたドーナツの穴は、子供の頃、友人のお母さんがドーナツを作って僕たちに食べさせてくれたときのものだ。出来たてのドーナツをいくつか、そのお母さんは僕たちのために皿に載せて出してくれた。そのいくつかのドーナツのかたわらに、小さな丸い玉のようなものがひとつ、置いてあった。ドーナツとおなじ材料を使って作り、おなじように油で揚げたものだった。
底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年

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