ストーリーは銀行に預金してある
ドーナツの店のカウンターで、僕はドーナツを食べながらコーヒーを飲んでいた。隣りにすわった男性が話しかけてきた。いつもの顔なじみに、ひょいと世間話をむけるのとおなじ調子で、
「やっこさんは、いい大統領だよ。俺は気にいってるね。おまえはどうだい」と、彼は初対面の僕に言った。
「父親がおなじ年齢なんだよ。喋りかたがよく似てて、親しみを感じるよ」
と僕は答えた。とりあえずの、あたりさわりのない返答だ。
その男性は重ねて次のように言った。
「まえの大統領のときは、俺は長…
底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年
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