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エッセイ

一九四五年秋、民主主義の始まり

 仕事の現場で、珍しく、久しぶりに、同世代の男性と知り合った。落ち着いたスーツにネクタイ、やや白髪の紳士だ。見た目での年齢の見当は僕にはつけがたかったが、太平洋戦争に日本が大敗戦した年の四月に、小学校一年生になったという。大敗戦の直前だが、日本はまだ軍国主義の戦時下にあった。だから彼が入学したのは国民学校だ。そしてその年の夏に大敗戦があり、次の日から日本は民主主義でやっていくはずの国となった。この日本の民主主義という神話の創世を、くだんの紳士は語った。
 その年の夏休みの残り何日かは、この紳士にとっては、戦後日本の初等教…

底本:『ピーナツ・バターで始める朝』東京書籍 2009年

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