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評論・エッセイ

あの夜はホワイト・クリスマス

 あの年のクリスマス・イヴには、彼はオートバイで山のなかを走っていた。夜のまだ早い時間に峠道に入り、対向車も後続車もまったくない、彼だけのワインディング・ロードを気分よく走っていた。猛烈に寒いのだが、ときたまオートバイをとめてはエンジンを抱くようにして暖をとりつつ、走った。
 峠道からは、眼下にある小さな盆地の明かりを見おろすことができた。赤や黄色の光が、ささやかな宝石箱のなかみのように、クリスマス・イヴの夜の底に、輝いていた。
 やがて、雪が降りはじめた。ヘルメットのシールドに雪の結晶が当たり、溶けずにそ…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『彼の後輪が滑った』太田出版 1996年
『アップル・サイダーと彼女』角川文庫 1979年所収

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