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エッセイ

それらは消えた、そしてそれっきり

 建てなおす以前の三省堂は良かった。あのクラシックな建物は、見るからに三省堂だった。たとえばお茶の水駅から明大前の坂を降りてきて、駿河台下の交差点から向かい側を見ると、そこに三省堂があった。あの建物がいつ頃に建てられたものだったのか、僕は知らない。建物の形状は内部のほとんどすべてに対して影響をあたえていた、と僕は思う。いま思い出してみるあの頃の三省堂の店内は、その時すでに、いつとも知れないいつかの、別世界だった。
 文房具売り場を中心に、その周辺、そしてその奥を、僕はしばしば訪れた。書籍はどこにあったか、まったく覚えてい…

底本:『音楽を聴く2──映画。グレン・ミラー。そして神保町の頃』東京書籍 2001年

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