VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

評論・エッセイ

『ハナ子さん』一九四三年(昭和十八年)

 映画の冒頭、タイトルよりも先に、「撃ちてし止まむ」という言葉が画面に出る。この言葉を僕は知っている、しかし、どのような経過をへて世のなかに出た言葉なのか、背景はまったく知らない。しかし調べればすぐにわかる。一九四三年の二月、「撃ちてし止まむ」という言葉をポスターにデザインしたものが、一般に配付されたそうだ。映画の冒頭で画面に出るのは、それとおなじもの、あるいは映画用に少しだけデザインされなおしたものなのではないか。敵との戦争を徹底的に戦おう、というような意味だ。
 一九四三年の一月、ニューギニアの日本軍が全滅した。二月に…

初出:『映画を書く──日本映画の謎を解く』ハローケイエンターテインメント 一九九六年
底本:『映画を書く──日本映画の原風景』文春文庫 二〇〇一年

このエントリーをはてなブックマークに追加